※A5版、A4版の画詩集をお求めの方は佐々木(mebae.art@gmail.com)まで直接ご連絡をお願いいたします。


本書『いのちのパズル』について
2020年10月から11月の2か月間、北海道とかち帯広空港にて開催した「佐々木めばえ展生命の森」をきっかけにご縁をいただき、2021年9月までの間に十勝管内の計7つの施設にて、生命の森の巡回展を行いました。巡回展終了後、医療法人徳洲会グループ帯広徳洲会病院様が生命の森の複製画を購入してくださったことから、通院患者さんや入院患者さん、医療従事者の方々に対して自分に何かできることはないだろうかと考え、絵画では伝えきれない想いを伝えるための手段として画集の構想を思いついたのが、『いのちのパズル』の始まりでした。本画集では、「生命を中心に据えた世界に生きたい。そのために自分にできることは何だろう」という想いと問いのもとに、2019年から2021年の2年間の間に制作した絵画作品とその背景にある哲学について綴っています。ひとりの人間が生きる上で思考を巡らせた記録として「いのちのパズル」を受け取っていただけると嬉しく思います。

『いのちのパズル』「はじめに」より

私は作品制作を通して生命体の定義を拡張し、地球がひとつの生命体であると同時に、全ての生き物が大きな生命体を構成している細胞だと考えています。森の地下で根同士が繋がりネットワークを形成し、遺伝子構造の多様性によって森全体の生命力を高めているように、生命維持のためには、生命体内の細胞の多様性と細胞間のつながりが必要不可欠です。同じ自然の原理が人間にも働いている前提で「町」を「森」に、人を1本の木に見立てて考えてみると、人、場所ともに固有性が失われ、繋がりが希薄になっている現代は森でいう「地下のネットワーク」から人間が分断されており、私たちの社会が自然の原理から乖離してきていることが示唆されるように思うのです。

パンデミック以後、日本では過去十年間に渡って減少していた自殺者数が再び増加し始め、多くの研究で有うつ病率が上がったことが報告されています。工場で生産されるコンピュータは図面通りに完成させられなければ不良品として扱われてしまうように、この考え方を食べ物や動物、更には私たち人間へとすべての生命に採用してしまったことで、「自然によって与えられた固有性を活かす方法」を忘れてしまったのではないでしょうか。その余波として、生命それ自体が経済的成長のためにコントロール可能な道具だと見なす生命観が私たちの意識に内面化されてしまったように感じています。このような、経済のために全体的ないのちを分裂させコントロールするという悪循環の中で、自然の原理が働くために必要不可欠な「いのちの固有性」が社会から失われ、個々人が持つ魂とのつながりが分断され、個性を認められず、自分を、相手を愛する方法がわからなくなってしまった人々が内側に愛を感じられなくなり、自死へと自分を追い込んでしまう構造が社会的に構築されてきたのではないかと考えています。
地球上で身体を持って出会えるのなら、同じ時代を共有しているという意味において、今地球に生きている人はみんな同世代だと私は思っています。魂が生まれ変わっているのなら、新しく地球に生まれてくる世代はまさに私たちの祖母、祖父、母、父、そして回りまわって私たち自身です。生まれて数か月の赤ん坊も、九十年が経ったおばあちゃんおじいちゃんも、今何歳であったとしてもすべての人は同じ自然の原理のもとに地球に生まれて生きている「いのち」に変わりありません。

『癒し(heal)』という言葉の語源は『全体性(whole)』に由来します。現代において「癒し」を求める人々が急増しているのは、海や山、森などの触れることのできる外的な自然、感情や直感などの自分の意識の内で働く内的な自然から疎外された人々が「自然そのもの」から分断されている痛みを抱え、いのちの全体性との一体感を取り戻すことを『癒し』に求めているからではないかと思うのです。コロナ禍により従来の社会システムが機能しなくなっていることが表面化した今、社会の中で暗黙に共有されている生命観を反省し組みなおす必要性と、人々の心と魂を「癒す」必要性を強く感じています。私は、森が木々の固有性から成る地下のネットワークによって全体としての生命力を高めているように、私たちの社会においても、人々の心の繋がりこそが生命力を高め、いのちの固有性と全体性を思い出していくことが、自然と人とを隔ててしまった現代の分断を再び結びつける「のり」の役割を果たしてくれると信じています。

作品制作は私にとって、答えに近づいていくための哲学の旅です。誰かのためではなく、自分自身が自分の人生を全うするために、この画集の制作を通して私の中にある真実に手触りを与えたかった。何度も「自分の創るものは、大切な人たちが抱えている避けることのできない心の痛みを救うことができるようなものになっているのだろうか?」という問いが心に浮かぶ度に「結局は自分の身体で経験した範囲のものしか本当の意味で理解することはできないし、表現することができないのだ」という自戒の念を抱いて制作を進めてきました。痛みを救うことができなかったとしても、この本を受け取ってくださった方が例えば目の前にある選択肢に逃げ場がないと感じた時に、頭の中の本棚から自由に本書を取り出し、自分の置かれている状況を解釈するときの視点のコレクションの一つになれたのなら幸せに思います。私がこうして制作ができるのも、支えてくれる家族をはじめ、私を信じ続けてくれている友人や、力を貸してくださる方々がいるおかげです。今、ここに健康体でいられること、支えてもらっていることに感謝しています。自分のできることで、少しでも恩返しをしていきたいです。

2021年12月16日 メキシコ・チアパス州 サンクリストバル・デ・ラス・カサスにて